忘れようとした記憶がありました

 いつかの夏。
 彼と出会いました。
 私より随分大人な彼は、私を妹として扱いました。
 それでも良いと思っていました。


 いつかの冬。
 彼は旅に出ました。
 「こんな世界は要らない」と遺して、遠い場所へ行きました。
 それも仕方が無いと思っていました。


 いくつも季節を過ぎた冬。
 彼の体温を思い出しました。
 高すぎる体温と、低すぎない声を思い出しました。
 いつか忘れるものだろうと思っていました。


 過ぎることのない春。
 彼は驚いた顔で私を見ました。
 忘れることなんて出来ませんでした。