逃走

「……なにを、してるんだ」


 私しか住んでいないはずの自宅の前に、小さな男の子が、体育座りで座っていた。


「あ、おかえりー」


 顔を上げて、はんにゃりと笑ってきた彼は、昼に一緒に授業を受けていた同じクラスの男の子。


「おかえり、じゃないでしょ。何してるの」
「いやあ、ちょっと、ね」


 別に付き合っているとかでもなく、学校でも特別一緒にいるわけでもないような、幼馴染。


「……いつからいたの?」
「学校終わって家帰ってすぐ来たからー……そんくらい?」
「私がバイト行った直後じゃないの……」


 えへへ、とまるで女の子のように笑って、家に入る私の後ろをついてくる。
 時計は10時過ぎをさしていて、今日は外がいつもより寒い。
 エアコンのスイッチを入れて、お湯を沸かして、ようやく自分の服を脱ぐ。


「冷えたでしょ。コーヒーでいい?」
「うん。ありがとう」


 だんだんとエアコンが効いてくる部屋に、お湯のこぽこぽという音が響く。


「砂糖、は……どうした?」


 ぎゅう、と、後ろから腕が絡みついてくる。
 首だけ少し後ろに回すと、同じくらいの身長の彼が背中にくっついていた。


「砂糖、いらない」
「え、あぁ、うん」


 そっちじゃないんだけどな、と思いつつ、されるがままにしておく。


「少し、こうさせて」


 いつもは高い体温が冷え切っているのが、背中から伝わってきた。


「無理は、しないように」


 回された腕の力が、少し強くなった気がした。