戦闘員

≪敵が出現。戦闘員は直ちに各地に出撃を。≫


 ポケットの中で震えた携帯は、真っ黒な画面に、黄色の三角に、赤い警告文字。
 国に支給された最新型のスマホは、使い勝手が良い代わりに、私たちにゲンジツを突きつける。


「先生」
「ああ、行ってきなさい」


 何もかもをわかった様子で、言葉を返す担任。
 最初の頃は少なかったのに、今では日常になってしまった、世界破壊。
 教室の壁に掛けられた、チョークを使わずデジタルになった黒板に、避難命令がでかでかと映し出されて。
 廊下に出る。慌てて避難しようとする生徒をかき分けて、3階の窓から飛び降りる。


「それで? 戦闘員のいる学校の校庭で戦おうなんてバカをあいつらは考えたわけ?」
『先手必勝。お前が出る前に校舎を潰せるとでも思ったんだろう』
『ばっかだねえ。うちのチームの情報網なめてんじゃねえぞ』


 騒がしい校舎を後ろに、目の前には大きな、人型の妖怪を捉えて、飛び降りた空中で右耳に装着したインカムからは気の抜ける声がふたつ。


「楽勝。10分、いや、5分で片づけるよ」
『無理。10分はくれ』
「嫌だね、めんどくさい」『めんどくさいってお前、そんなこと言ってるから前回も大けがを、っておい聞いてんのか!』
「アーアーキコエナーイ」
『あーもー! 自由人に付き合うこっちの身にもなれ!』
『素直にお前の体が心配なんだ!ヤらせてくれ!って言えばいいじゃん』
『おっま、んなこと思ってねえよ!』
『またまたー、顔真っ赤だぞー?』
『俺の顔見る暇あったら雑魚潰せ!』


 スナイパーの男の子と、私と一緒に前線で戦う男の子。それと、ここにはいない、情報収集役の男の子。合計4人で私たちのチームは構成されている。1人でいても優秀な子を集めたエリート集団、国からの指示で動く、”戦闘員”。


「っと、あぶない」


 妖怪の鋭い爪と、スナイパーの弾の真ん中をするりと抜ける。いや、少しだけ右腕をかすったか。服が破けて風が入る感覚がする。


『おい、大丈夫か』


 右耳から、少し息の荒い低い声。
 少し口元がにやりとして、右手に持っていたナイフを腰のバッグにいれ、左手から宙に浮かせた拳銃で、3発。


「なぁに? もしかして本当に私の体がほしいの?」


 くすくすと笑っておちょくると、妖怪の向こうにいた男の子の体が一瞬止まる。


「ばか、」


 その一瞬を見つけて、妖怪が男の子に襲い掛かる。
 拳銃に力を込め、大きなガトリングガンに変化させ、すぐに弾を妖怪の体に流す。
 私からの攻撃に気が付いた妖怪は標的を私に変え、こちらに体を向けて襲い掛かってくる。


『おい、お前……っ!』
「動揺する暇があったら、援護!」


 インカムの向こうから2人の緊張が伝わってくる。
 妖怪の体は私が、恐らく3人分は縦に入るだろうか。校舎から見てもこいつだけ異様にでかかった。それを1対1で敵に回す気はなかったのだが、元はと言えば私が仲間をおちょくったのが原因。責任は取る。


「死ぬ気でかかってこいよ。死ぬ気で行ってやるからさ」


 自分でも、拳銃を握る手が震えたのが、冷汗が右目の横を通ったのが、わかった。


「行くよ」