もう、こんな目などいらない。

 初めから前髪が長かったわけでは無い。そもそも、切り揃えられた前髪から、今でも右目は見えている。
 風に、動きに揺れて、稀に見える左目も、昔はちゃんと見えていた。隠した理由は、あまりに単純なものだった。


「気持ち悪い」


 青く光る左目を、人は嫌った。自分だってそれを望んだわけでは無い。自制も出来ないその未知を、知らないモノに蓋をする人間は避けた。
 避ける人々を自分から避けることは容易かった。年齢を重ねるにつれ、「このままでは生きづらい」と感じるようになった。気が付いたら、その青を隠すように、髪が伸びていた。
 成人を過ぎた今、自制は出来るようになった。それでも不意に青く光る左目を自らが恐れて、隠し続けている。


 風が吹いて、肩のあたりで首をくすぐるように髪が揺れる。ふるふると体を震わせてくすぐったさから逃げる。
 隣に座っていた男性が、小さな声を零した。


「久し振りに目見た気がする」


 ぴくりと体を固まらせて、極力目を隠して彼を見る。男性は苦笑いをした。


「そんなに怯えなくても、大丈夫だよ」


 そう言われても、長く根付いた癖が許さない。頭を撫でた彼の手で、隠した目がまた世界を見る。
 逃げたがる私を認識して、それでも撫で続ける。


「その目、俺は嫌いじゃないけどなあ」


 わざとその目を見るように零した声に、声を返せない。
 それでも私は、この目が嫌いであり、何度潰しても潰れないこんな目、どうしたら良いのか。それ以外、今はまだ考えられない。