冷えた色の目に宿る

 「初めまして」と挨拶をしたのは、まだ物心がついたばかりの頃。
 母親の手を握る私と、男の人の手を握らない彼。
 その時からもう、彼の目は冷えていた。
 桜を見て、海を見て、色つく葉を見て、雪を見て。
 何度繰り返しても、言葉に熱はあっても、目だけは変わらなかった。


 移動教室のために歩く廊下で、微かにに聞こえる女の子の声。


「ほらあそこ、二年の三嶋くん、かっこいーよね」
「あの目がたまらないんだよねー!」


 その目が私はダメなんだけどな、と、小さく苦笑いをする。


「咲? どうかした?」


 友人の声で引き戻される。


「ん、いや、なんでもないよ」


 彼が笑わない分、私は笑うことが随分と得意になっていた。


「優、今日の夕飯何が良い?」


 連れ子同士で再婚した両親は、離婚調停真っ只中。私たちに迷惑はかけたくないと言い、学校に通える範囲にあるアパートで、二人で暮らしてもう一年。


「なんでも良い、かな……」
「ゲームに忙しいのはわかるけど、もーすこし考えてくれると助かるなあ」
「んー……」


 生返事で答える彼は、携帯から目を挙げない。
 ふと、気になって。彼の目を覗き込む。


「……何も浮かばないよ?」


 やっとこっちを見た目は、相変わらずの色をしていた。
 やっぱだめだなあ、と、目を逸らす。


「なんとなく見てみたかっただけ。気にしないで」


 そう言って腰を上げて、夕飯を考える頭に持っていく。
 彼の視線が背中を刺しているのが、痛いくらいにわかってしまった。
 重たい、心地良くない沈黙。
 それを破るのは、普段は私だったのに。


「……離婚したら、僕たちは離れるのかな」


 突然投げてきた質問に、答える準備なんて出来ていなかった。
 目が泳ぐ。


「離れたくない、なあ」


 彼が、明確に何かを望むことは、今までそうそうなかった。誰かに言われるがまま動くその姿は、大嫌いだった。


「え、っと……。んー、そうだね。離れるのは寂しい、ね」


 彼の言葉の意図が掴みきれない私は、感じたことを言うしかなくて。


「このまま一緒に、二人でいられたら良いのに」


 望むしか出来ない、まだ幼い私たちは、その先の未来をまだ考えられない。
 続ける言葉が見つからなくて、また、沈黙。
 重苦しい沈黙は嫌いだから、どうにかして言葉をひねり出したいのに、何も出てこない。
 彼が携帯を手放して、私の方に一歩踏み出す。


「ねえ」


 言葉は、息になって喉に詰まる。無意識に下がってしまった足と体。右腕を、彼が取って。


「どこか、二人で行こうか」


 あんなにも願った色が、彼の目に宿った。