隣の体温

 たまたま隣に座っただけだった。
 彼の向こうに彼氏が座って、三人で同じゲームをしていた。
 声を出して笑う彼らは楽しそうで、声を出さずに混ざる私はだんだんと眠くなる。
 ふと、彼の肩に私の肩が触れた。私と似た服の趣味、恐らくそれほど厚くもない上着越しに、じんわりと熱が伝わる。
 ――離れてしまうのはもったいない。
 そう考えてしまった私がいて、ああダメだ、と意識が途切れかける。
「う、わ、――」
「おーい、大丈夫か。死にそうだぞ」
 少し止まった手を狙ったかのように、ゲーム内のモンスターが私のキャラクターを殺しにかかる。
「んー、へいき」
 ゆっくりと笑って答えた先は彼氏で、肩が未だ触れ続ける彼は、さっきと同じように声を上げて笑うだけ。


 クエストが終わって小休憩。彼らはまた話を続けて、私はまた眠たくなる。
 よいしょ、と声がしたような気がして、彼が椅子に座りなおす。まだ触れていた彼の肩が離れた。
 なんだか寒い、と、じんわりとしか感じていないつもりだった彼の体温が、思っていた以上に温かかったのだと実感する。
 ――ここでまた触れなおすのもおかしいか。
 そう言い聞かせて、支えの無くなった体に少し力を入れる。
 座りなおした彼の肩はもう離れていて、また不意に触れてしまった、という状況はもう出来上がらない。
 残念、と落ちかけるまぶたの中でそう呟く。
「あー、これ行きたい、これ」
 彼がそう言った相手は彼氏で、私はなんのクエストにもついて行くと言ってあるから何でも良いのだけれど、とぼんやり考えていると、彼からこちらに触れて、また彼の体温を肩で感じる。
 明らかに、自然な触れ方ではなかった。意図的に触れてきたように感じるその肩を見ることは出来ず、彼も相変わらず彼氏の方を向いて話をしている。
 何の意図があって、と、眠りかけた頭が起きる。そのせいでまた、彼の温かい体温を強く感じてしまう。


 最終的にどうしてその肩を離したのかは覚えていない。ただ、彼も私もそのことを言葉にすることは一度も無く、何も無かったかのように笑い合い、彼氏の前で振る舞った。その振る舞いの中で、彼がどんなつもりで笑い、何も言わなかったのかすら、私には何もわからない。


 それからというもの、今まではそんなことは無かったのに、ゲーセンにいつ行くんだ、とか、そういう話をTwitterでしてくるようになった。誰かと遊びたい、時間が有り余っている私が一番確率が高い。そう捉えるべきか、それとも私に会いたいと捉えるべきか。全くわからないほど、彼は人懐こい。
 数日後、Twitterで吐き出してしまった彼氏の愚痴。名前を明確にはしないものの、ひどくわかりやすく彼氏のことであると認識できてしまう言葉たち。
《愚痴なら聞くよ?》
 そう送ってきた彼に、ああもう、と意識が詰まる。大好きだ、という言葉が浮かんでしまった。